インフルエンザ と  
    インフルエンザワクチン


 インフルエンザは、毎年冬に流行するカゼの親玉のようなものですが、欧米では普通のカゼと区別して、重症疾患として取り扱っています。
 ふつうのカゼと大きく違う点は、発熱、咳、倦怠感などの症状が強く、治りにくいということです。また、感染力が強く、時として大流行することもあります。さらに、重症な合併症も多く、肺炎や気管支炎をおこして、入院することも珍らしくありません。乳幼児では、けいれんをおこしたり、意識がなくなってしまうような脳炎や脳症などを併発し、危篤状態に陥ることもあります。また、ここ数年高齢者での重症化も問題になっています。



 インフルエンザの症状は
 
 インフルエンザの潜伏期間は短く、患者さんに接触すると1〜2日くらいで発症します。特徴的な症状は突然の高熱ですが、あまり熱のでない時もあります。インフルエンザの症状を一言で言えば、“今まで経験したことがないような、どうにもならない倦怠感”といえます。一度かかった人なら誰でもわかりますよね。“周囲にインフルエンザの人がいて、突然高熱が出て、目が充血して、ぼーっとした表情”だと、インフルエンザかなと思います。

 この症状は数日から1週間くらい続きますが、以前は、インフルエンザに効く薬がなかったので、毎日点滴したり、どこに効くかわからない(?)抗生剤を延々と飲み続けたりしてましたが、どんどん悪化して、入院することも珍しくありませんでした。何とか治っても、しばらく体調が戻らないため、2〜3週間は仕事が手につかない方も多く見られました。

 今は、インフルエンザの検査も容易にでき、効く薬もでき、インフルエンザで入院する人は少なくなりました。ここ数年のインフルエンザ治療の進歩はめざましいものがあります。しかし、新型インフルエンザ、脳炎、脳症、薬の副作用、など新たな問題も後を絶ちません。

 インフルエンザは、有史以前(人類が地球上に現れる前)から存在していたと言われます。人類とインフルエンザの戦いには果てがないようです。

詳しくは、→最新のインフルエンザ戦略


 インフルエンザワクチンの有効性→“重症化を防ぐ”

@.インフルエンザウイルスは、毎年少しずつ構造が変化するため、それに合わせたワクチンが必要になります。前年に流行した株から、翌年に流行しそうな株を予測して作られるわけですが、いつもドンピシャリと一致するわけではありません。
 しかし、抗体には、よほどウイルスの株が違わないかぎり、似た形のウイルスとは反応し、その働きを中和するという能力がありますので、全くの新型でない限り、十分に効果が期待できます。 

A.インフルエンザウイルスは、まず最初に鼻の粘膜で増殖し、それから体内に入り込んで全身を駆けめぐり、時には肺炎、脳炎、心筋炎などの重篤な合併症を、引き起こします。これに対し、ワクチンは体内(血中)に抗体を作り、ウイルスが体内に入り込んでからの活動を抑制するように働いてくれます。

 つまり、ウイルスが鼻粘膜で増殖している時は(鼻水、咳、発熱など初期症状の頃)ワクチンの効果が十分みられない事もあります。(ワクチンは、インフルエンザの感染を直接防ぐことはできないのです。→軽度のかぜ症状はやむを得ないと思って下さい。)

 しかし、この増殖したウイルスが体内に入り込んできた時に、ワクチンによってすでに作られている抗体が、ウイルスの活動を防いでくれるため、重篤な合併症を引き起こさないですむのです。ワクチンは、重症化を防いでくれると思って下さい。


 インフルエンザワクチンの副作用の心配は?


@.ワクチンに使われる成分(卵白など)に対して、アレルギーがある場合

★.アナフィラキシーショック(接種後15〜30分で、血圧低下、喘鳴、浮腫など)を、おこすことがありますので、接種前に皮内テストを行い、安全であることを確認してから行います。
★.接種後30分以内に、体調が悪くなったらすぐ診察を受けるようにして下さい。


A.ワクチンの菌(ウイルス)そのものによる場合

 接種部位に発疹、腫脹が出現したり、軽い発熱、頭痛、倦怠感がみられることがありますが、自然に軽快することが殆どです。しかし、稀ではありますが、神経障害を引き起こすことが報告されています。けいれん、麻痺、脳炎、脳症、知覚障害、等が、報告されています。しかしながら、ワクチンとの因果関係が、はっきりしない場合が多く、殆どの場合回復しているようですが、どの程度ワクチンが関与しているかは、明らかではありません。

 マスコミで伝えられる副作用報告では、発熱や接種部位の発疹、腫脹のような軽い症状も含まれていたり、重篤な副作用の中には、因果関係がはっきりしないものも多く含まれています。

 インフルエンザワクチンによる(と思われる)副作用の頻度は、他のワクチンと比べて決して多くはなく、重篤な副作用は、インフルエンザワクチン100万接種に対して、0.35という数字がでています。これを人数になおすと、2.000万人に7人が副作用がみられるということになります。ただし、これらのうち何例が確実にワクチンが原因なのかということは、判明していません。あくまで、ワクチンがあやしいと思われている場合でこの数値です。

 この数値を多いとみるか、少ないとみるかは、さておき、他のワクチンと比較してみると、麻疹(はしか)100万あたり6.00、BCGが1.55、三種混合、ポリオ、日本脳炎、風疹は0.4〜0.6と報告されていますので、インフルエンザが、もっとも重篤な副作用が少ないと言えます。しかし、この数少ない副作用の中には、神経後遺症を残した例も含まれています。(ワクチンとの因果関係は不明のままです。) 

 最終的には、ワクチンを行うプラス面・マイナス面をよく見極めて、自分にとってプラス面(重症化を防ぐ)が、マイナス面(副作用)を上回ると考えたときに接種をすべきと思います。日本のワクチンは世界で最高水準のワクチンです。副作用は世界中で一番少ないと思われます。が、上述したような副作用もおこりうるということは知っておく必要があります。


 ワクチンの接種回数は、2回?、それとも、1回?
 
 従来、2回接種しないと効果がないように考えられていましたが、欧米では、小児は2回、成人は1回が普通です。1回接種で十分とするのは、成人ともなれば、今までに、何度かインフルエンザに罹患しているので、ワクチン株ウイルスと実際に流行してきたウイルスとが、よほど大きく違わなければ、共通部分の抗体が、かなりカバーしてくれると考えられるからです。健康成人の場合は1回でも十分かもしれません。

 しかし、ワクチンの効果は、ワクチンを受ける人のこれまでの免疫の記憶と免疫応答力、そして、流行するウイルスの変異の程度で決まってきます。つまり、個人差が大きいのです。何回かかっても抗体価の上昇の少ない人もいれば、少しかかってもすぐに抗体価が上昇して免疫のできる人もいます。このように個人差が大きいので、成人でも一律に1回でよいともいいがたいところがあります。

 簡単にいうと、免疫力の弱い人は2回接種、ある程度免疫のある人は1回接種で十分ということになりますが、この区別が難しく、ケース・バイ・ケースと言わざるをえません。一応下記のような試案がありますが、参考程度と思って下さい。

(1).1回接種でもよい(と考えられている)場合
@.中学生以上の(健康な)方

(2).2回接種が望ましい場合。
@.小学生以下のお子さん。
A.今までに1回も接種を受けたことのない方。
B.一昨年、または、昨年インフルエンザにかからなかった方。
C.慢性の病気を持っている方(気管支喘息、糖尿病、高血圧など)。
D.集団生活をしている方(寮、学校、保育園など)。
E.不特定多数の方と接触のある職業の方、比較的密室での作業の多い方(タクシー、医療関係者など)

★.普段からカゼをひきやすく治りにくいような方は、2回接種が望ましいと思います。

★.昨年ワクチンを2回接種した方や、インフルエンザにかかった方は、1回でもよいという考え方もありますが、免疫のでき方には個人差が大きく、また、今シーズンもワクチン株が変更しますので、原則的には2回接種が望ましいと思います。

★.ワクチンに含まれる抗体はA香港型、Aソ連型、B型の3種類で、それぞれいくつかタイプがあり、そのシーズンの流行を予測して製造されます。18年度は、A香港型とB型が昨年度と変更になっていますので、今シーズンの流行を考えれば、低年齢ほど2回接種が望ましいと思います。


 乳幼児のインフルエンザワクチン接種について
 

 現在は、インフルエンザの診断が容易になり、インフルエンザにかかる幼児が実に多くいることが明らかになってきました。

 幼児期は免疫力も弱く、インフルエンザに対して一番無防備な状態といえます。このような背景から、最近は幼児期からの接種も勧められるようになってきています。
 しかしながら、幼児の場合、免疫も未熟なせいか、0〜2才くらいまでは、初年度2回接種でも十分抗体価が上昇しないこともあります。しかし、全く無効ということはありません。

 インフルエンザによる脳炎、脳症は、1〜5才くらいのお子さんによく見られます。幼児期から積極的に接種をすれば、この年令での免疫が十分高まり、予防効果が期待できると思いますので、毎年接種した方がよいと思います。

 インフルエンザによる脳炎、脳症の発症機序については、現在、厚労省の予防接種研究班会議でも検討中ですが、インフルエンザに罹患しても重症化しなければ、脳炎、脳症を起こさなくて済むという論理で、ワクチンの必要性を主張する学者もいます。
 従来、ワクチンを接種していれば、脳炎、脳症にかからないと言われていましたが、最近はワクチン接種したにもかかわらず、発症したお子さんがみられています。ただ、ワクチンによる免疫が十分できていたかどうかは不明です。

 インフルエンザ脳炎、脳症は、なぜか、日本を中心とした東南アジアに多くみられています。(欧米ではあまり報告がなく、最近詳しい調査が始まりました。)こうした事情から、本邦では、幼児からワクチン接種が勧められることが多いと思います。

 最近は、1才未満乳児(6ヶ月以上)でも接種が行われるようになってきました。1才未満ではあまりインフルエンザにかからないように考えられていましたが、そんなことはありません。6ヶ月くらいの赤ちゃんでも結構インフルエンザに罹患します。保育園などで集団生活をしている赤ちゃんは接種した方がよいように思います。

 赤ちゃんのインフルエンザで多いのは親からの感染です。赤ちゃんのいる家庭では、周囲の大人達もワクチンを接種した方がよいと思います。

 以上より、ケース・バイ・ケースではありますが、6ヶ月以上からの接種も勧められるようになってきました

 予防接種をしないで、冬を迎えることは、丸腰でインフルエンザと闘うことになります。ワクチンは重症化を防いでくれます。積極的にワクチンを接種しましょう。