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衆院本会議は18日午後、議員立法4案が提出された臓器移植法改正案のうち「脳死は一般に人の死」と位置付け、本人が生前に拒否表明しなければ、家族の同意で臓器提供を可能にするA案(中山太郎元外相ら提出)を賛成多数で可決しました。
「脳死は人の死」案、衆院通過 臓器移植法改正(共同通信)
「脳死は人の死」とし、家族の同意があれば15歳未満でも臓器移植を可能とする法案が衆議院で可決されました。この法案によって、小児の臓器移植が推進されていくのでしょうか。
以前より、日本では小児の臓器移植が実質的に不可能であるため、わざわざ海外に行って、移植手術を受ける人が多く、早く国内での手術ができるように要望されていました。移植を待っている人たちからはたいへん歓迎される法案です。
ところで、法案可決した時、拍手をしながら笑顔の国会議員もいましたが、亡くなった人の臓器を移植するわけですから、移植されて喜ぶ人がいる一方で、人が亡くなり悲しむ人がいるということも事実です。この議員たちの態度にはデリカシーを感じませんね。「こいつら、ドナー(臓器を提供する側)に対して、少し気を遣えよ。」って言いたくなります。
今回の法案では「脳死は人の死」と決めつけてしまいましたが、日本人の死生観は、外国に比べて独特なものがありますので、「脳死は人の死」を、すんなり受け入れられない人たちも多いように思います。
「脳死」でも機械をつければ、心臓も動き、呼吸もでき、温かい血液が循環します。見た目にはぐっすり眠っているようにも見えます。
法案では「本人の意思が不明な場合でも家族が同意すれば臓器提供できる」とあります。生前から、わが子の臓器提供をする意思があるご両親ならともかく、わが子が危篤状態でやり切れない気持ちでいるご両親に対して、いきなり「お子さんの臓器を提供してくれますか。」という選択を迫るのは残酷な気がします。
ドナー(臓器を提供する側)の家族は、「どうせ助からないなら、移植を待っている人のために役立ってあげよう。」とも考えるでしょうが、「もし少しでも回復の可能性があれば、10年でも20年でも待っていたい。」とも思うでしょう。
また、レシピエント(臓器を受ける側)の家族は、「臓器を移植してほしい。生きていきたい。」と思うでしょう。これは当然のことと思います。両者の思いが一致すれば、臓器移植は今後推進されていくでしょう。
そのためには、前もって臓器移植に対し「心の準備」をしておくことが大切ではないでしょうか。あり得ないことと思いながらも、もし、自分の子がドナー(臓器を提供する側)または、レシピエント(臓器を受ける側)になった場合を考えてみて下さい。
わが子が不治の病に陥り臓器移植しか治療法がないとしたら、臓器を欲しいと思います。しかし、逆に、わが子が脳死になった時はかわいそうだからあげられないと思ってしまうのではないでしょうか。
子どもをレシピエント(臓器を受ける側)にしたい人は多くても、ドナー(臓器を提供する側)にしたい人は少ないのが実状と思います。
ある肝移植希望の子どもが、オーストラリアで臓器移植待機中に肝不全で亡くなりました。そこでコーディネーター(臓器提供に関する一連の手続きを調整する専門職)が親に腎など他の臓器提供の意思を尋ねたところ、親は提供を断ったそうです。
それまでどちらかといえば日本人には親交的であったオーストラリア人も、それ以降は日本人を受け入れなくなりました。
『わが子のためには他人の臓器がほしくても、他人のためにはわが子の臓器をあげたくない』という人と、『他人のためにもわが子の臓器をあげてもよい』という人が、同じように臓器提供されるのでは不公平だと思います。当然、『他人のためにもわが子の臓器をあげてもよい』という気持ちの人から優先的に臓器提供がなされるべきと思います。
現実的には難しいかもしれませんが、例えば、母子手帳発行時に臓器提供の意思をご両親に確認してみても良いと思います。もちろんその時に意思決定をする必要はなく、ご両親でよく話し合って、レシピエント(臓器を受ける側)かつ、ドナー(臓器を提供する側)の両方になってもよいと意思表示した場合にのみ、優先的に臓器提供を受けることができるという規定があってもよいと思います。そして、子どもが成長し、【死】ということを理解できるような年令になったら、改めてその子の意思で決めればよいと思います。
サッチャー時代のイギリスで、「日本人は札束で臓器を買いに来る」と揶揄されました。世界からは我々医療界も含めて日本人は侮蔑されているかもしれません。自分だけが良くなればよいと思ってはいけない。人から恩恵を受けるには、自分も人に恩恵をほどこさねばならないと思います。日本の臓器移植が進まないのは、身勝手な国民性も原因の一つかもしれません。
再生医療が進歩して、多くの臓器が再生できるようになれば、臓器移植は必要なくなります。早くそうなるように期待したいです。
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